日光市北部、福島との県境の山あいにある三依地区。
関東で水質ナンバー1に選ばれた男鹿川が流れる豊かな水と自然に恵まれた地域です。
キャンプ場や魚釣りに県内外から訪れ、清らかな水がはぐくむ蕎麦も特産です。
そんな三依地区。
近年では過疎化が進み、限界集落とも言われています。
ですが、豊かな自然と静かな環境に惹かれて移り住む人もいます。
受け継がれてきた暮らしを大切にしながら、新しいことに挑戦する人もいます。
三依の里山の中で作品作りに打ち込むふたりのアーティストを訪ねる旅に出てみましょう。
国産の木材と職人のやさしい工夫がにじむ木工家具
国道121号沿いの中三依温泉駅の近く。
そば処と宿を営む「まるみの湯」の敷地内に、小さな家具屋「まるみ木工」があります。
そば処のご主人でもある阿久津淳さんは木工職人の顔も持っていて、自身で制作したオリジナル家具を展示販売しています。
「この建物は戊辰戦争の後に建ったもの。この辺はもともと会津藩でしてね…」
阿久津さんがそう話す太い梁が支える古民家の1階が木工ギャラリーになっていて、一枚板のテーブル、椅子、スツール、ベンチなどが並んでいます。
木の種類はサクラ、トチ、ケヤキなど、全国から仕入れた上質な木材を使います。
最近人気のウォールナットだけは海外から仕入れるそうです。
特に注文が多いのが椅子だそう。
「日本の生活の中で靴を脱いで使うことを考え、一般的な家具屋さんの椅子より2センチほど低くしています。座面にくぼみを付けたものも多いのですが、座っていただくと背筋が自然と伸びるんですよ」。
作り手である阿久津さんのお話を直接伺いながら、座り心地を確かめてお気に入りの一脚を選ぶ。
暮らしが豊かになりそうな、とてもいい時間です。
例年マイナス19℃ぐらいまで冷え込むという三依の冬。
大変なのが、木工の制作中に暖房を使えないことだそうです。
暖房を使うことで、木が反ったり動いたりしてしまうため。
寒さを乗り越えて作られる阿久津さんの木工家具。
体をそっと包み込んでくれるような温かさを感じるのも気のせいではないでしょう。
木工職人の阿久津淳さん
座面にくぼみがあるカエデのスツール
宿の客室棟も兼ねた建物の1階が木工ギャラリーになっている
DATA
まるみ木工
栃木県日光市中三依254